アウトソーシングとは? 派遣との違いやメリットをわかりやすく解説
人材不足が深刻化し、不安定な世界情勢の中、企業はビジネスリスクに備えた経営戦略への転換を迫られています。そんな中、現代企業が抱える課題の解決策として注目を浴びているのが「アウトソーシング」です。
アウトソーシングとはいわゆる外部委託形態の一種ですが、単なる外注とは異なり、企業戦略に基づいた経営手法の1つです。コスト削減や業務効率化、さらに各分野のスペシャリストを即時に利用できるといったメリットを持っている一方で、企業戦略に合致した計画を立てなければ失敗するリスクも存在します。
この記事では、アウトソーシングの定義や委託できる業務、契約形態、人材派遣との違い、メリットやデメリットまで網羅的に解説します。
目次
アウトソーシングとは?
アウトソーシングとは英語で「outsourcing」といい、直訳すると「外部資源の活用」という意味です。具体的には、「外部の専門業者に社内の業務の一部を委託すること」と定義することができます。
外部資源の活用には、従来から人材派遣、外注など多様な手法が存在しましたが、アウトソーシングはそれらとは似て非なるものです。現代企業の課題を解決する「経営手法」として注目されています。
その理由として挙げられるのが人材不足。
最近では人材不足の影響により、全ての業務を社内で完結するのが難しくなってきました。
アウトソーシングすることによって業務の分散化を図り、効率的かつクオリティ高い業務が実現可能となっているのです。
業務を受託して行う業者は「アウトソーサー」と呼ばれます。
アウトソーシングの目的
アウトソーシングを活用する主な目的は、リソースの補填です。
リソースと言っても設備やお金などさまざまですが、多くの場合は「人的リソース」が挙げられます。
会社は社員が働くことで成り立っています。逆に、社員がいなければ会社を拡大させることは難しいでしょう。現在の日本は少子高齢化により労働人口が年々減少傾向にあります。
そのため、事業を拡大したくても人員不足によって拡大できないという企業も少なくありません。
アウトソーシングを利用することによって、不足しているリソースが補填されて事業の拡大へとつながるのです。
コア業務とノンコア業務
どのような企業にも、ノンコア業務とコア業務があり、それぞれの違いは以下の通りです。
- ・ノンコア業務:担当者以外でも対応できる定型的な業務
- ・コア業務:担当者の高度な判断を要する業務
コア業務の一例としては、営業や販売、商品開発などが挙げられます一方で、総務や経理といった裏方作業がノンコア業務の代表といえるでしょう。
下記はコア業務とノンコア業務のそれぞれの特徴を比較したものです。
【コア業務】
・会社の利益を直接生み出す業務・非定型の業務
・専門的かつ戦略的な判断が必要な業務
・企業戦略や会社のブランド力に直結する業務
【ノンコア業務】
・会社の利益に直接関係しない業務
・定型的な業務
・誰でもできる業務
・会社戦略とは関係のない業務
コア業務は直接売上に直結することもあり、会社が手放してはならない企業の中心領域であるのに対し、ノンコア業務は外部に委託してもさほど支障がありません。
そのため、社内のリソースをコア業務に注力できれば、企業のブランド力やこれまで以上の売上を伸ばすことができます。コア業務の拡大、強化に投資していくことで、事業の生産性が向上し、企業の経営は安定的に成長していくでしょう。
しかし、実際には多くの企業が社内リソースの大部分をノンコア業務に割かなければいけません。なぜなら、業務の大部分をノンコア業務が占めているからです。
ノンコア業務はその性質上、常に一定数発生してしまいます。そのため、社員は膨大な量のノンコア業務の処理に追われてしまい、コア業務はどうしても後回しになるケースが非常に多いのです。そんな状況を打破するための解決策として利用されるのがアウトソーシングと言えるでしょう。
ちなみに事務アウトソーシングもノンコア業務に該当します。
▶「業務を効率化!事務アウトソーシングのサービス内容とは?」
アウトソーシングに向いているのはノンコア業務
アウトソーシングに向いているのはノンコア業務です。ノンコア業務は定型的な業務で、会社の利益にも直接関係することはほとんどありません。
また、ノンコア業務は比較的ルール化やマニュアル化がしやすい業務であり、適切な手順で行えば、社外に切り出すことが可能です。コア業務を圧迫しているノンコア業務をアウトソーシングすることによって、社員は煩雑なノンコア業務から解放され、本来取り組むべきコア業務に注力できます。
アウトソーシングの成功のカギを握るのは、コア業務とノンコア業務の見極めだと言えるでしょう。
アウトソーシングの契約形態
アウトソーシングをする際には、委託者はアウトソーサーとの間に業務委託契約を結びます。ただし、業務委託契約という法律上の用語は実際には存在しません。
アウトソーシングにおいては、厳密にいうと「準委任契約」と「請負契約」という2種類の委託形態が存在します。
準委任契約とは?
準委任契約とは、法律以外の事務を委任する契約形態のことを指します。
準委任契約において受託者に求められるのはあくまでも業務の遂行であり、成果物の提出ではありません。受託者は誰の指揮下にも入らず、自己の道具を使い、決められた範囲の事務処理を行えば、対価を受け取ることができます。
テレアポ(営業活動)を行うコールセンターで例えるならば、指定の範囲の営業活動を行った時点で報酬が発生するのが準委任契約です。営業によってもたらされた成果は報酬には関係ありません。
請負契約とは?
請負契約とは、成果物の提出に対して対価を支払う契約形態のことです。準委任契約とは異なり、委託者は成果物と引き換えに報酬を支払います。
また、提出された成果物が委託者の完成基準を満たしていなければ、委託者は受託者に報酬を支払う義務はありません。さらに、委託者は成果物に欠陥がある場合、受託者に対して補償や損害賠償を請求することもできます。
コールセンターで例えるならば、請負契約の報酬形態は「営業活動によって発生した売上の〇%」というような形となります。受託者はコールセンターを稼働させるだけでなく、営業活動により一定の売上を発生させなければ、報酬を受け取ることができません。
アウトソーシングと人材派遣との違い
第1章で、アウトソーシングの目的を「業務の一部を外部に切り出し、社内のリソースをコア業務に集中すること」と説明しました。それでは、従来の外部リソース活用法である「人材派遣」とアウトソーシングは、いったい何が違うのでしょうか?
アウトソーシングと人材派遣との最も大きな違いは、「業務を社外に切り出すかどうか」だといえます。
人材派遣では派遣会社から人材を供給してもらい、派遣社員が働いた労働時間に対して対価を払います。
「業務を社外に切り出す必要はないが、今現在人手が足りない」というニーズを満たすためのサービスであり、即座に人員を補充して適材適所に配置できる点がメリットだといえます。ただし、派遣社員の教育やマネジメントは全て企業が行わなければなりません。
一方、アウトソーシングでは業務そのものを外部業者に依頼し、指定された仕事の遂行に対価を払います。
切り出す業務範囲の共有やルール策定など、導入するまでには時間がかかりますが、委託後は社内におけるマネジメントの負担を大幅に減らすことができます。課題となっている業務量が少なければ人材派遣で解決できる場合がありますし、反対に業務量や業務範囲が大きいのであれば、アウトソーシングが向いています。
このように、人材派遣とアウトソーシングは性質の異なるサービスであり、それぞれの得意分野を理解して活用する必要があります。
なぜ今アウトソーシングなのか?
アウトソーシング市場は年々成長しています。
2017年度の調査では、人事・総務関連業務のアウトソーシング市場規模は、前年比19.3%増の8兆2,396億円に達しています。この市場には人材派遣、人材紹介等のサービスも含まれており、企業が外部委託の活用に積極的になっている世情が見て取れます。
アウトソーシング市場が伸びている背景には「人材不足」と「企業の経営戦略の変化」がある、といわれています。
人材不足を補う経営戦略
近年、少子高齢化が進む中で労働力人口が減少し、国内企業の人材不足が深刻化しています。2065年には、2016年と比較して労働力人口が4割減少するという見通しも立てられているほどです。特に中小企業における人材不足は深刻であり、企業はより徹底したコスト削減の必要に迫られています。
このような中で、人的リソース不足を解消しつつ、業務改善によるコスト削減を期待できるアウトソーシングサービスに大きな注目が集まっているのです。
企業の経営戦略の変化
人材不足に加えて、企業の経営戦略が変化してきていることもアウトソーシング市場を押し上げる要因となっています。
価値観やニーズが多様化し、消費者行動が目まぐるしく変化する現代。世界情勢も不安定で予断を許さない状況が続いており、国内企業はビジネスリスクに対して備える経営戦略に取り組み始めています。
そのうちの一つが「経営の多角化」です。多角化経営には、一方の事業が赤字であっても、他の事業で補えるというリスク分散のメリットがあります。
しかしながら、経営の非効率化や、新規市場で成功するための新たなスペシャリストが必要となる、といったデメリットも存在します。
業務の拡大によって非効率化する経営をスマートにし、新規市場における専門的ノウハウを即時に活用できる経営手法の1つとして、アウトソーシングサービスが存在感を増しているのです。
参考資料:
https://the-owner.jp/archives/963
http://branding-academy.jp/brand/457/
アウトソーシングのメリット・デメリット
実際にアウトソーシングを導入するメリットやデメリットを見てみましょう。
アウトソーシングのメリット
アウトソーシングのメリットは以下の5つです。
・生産性の向上
・業務クオリティの向上
・コストの削減
・専門的な業者のパフォーマンスを即座に活用できる
・組織の肥大化防止
1つずつ紹介します。
生産性の向上
先にも述べたように、アウトソーシングの最大のメリットは、企業のリソースコア業務に集中できることです。
これによって、企業の核となる事業の生産性を向上させることができます。
業務クオリティの向上
ノンコア業務は往々にしてルーティーン化され、作業が非効率的になりがちです。そのような業務をアウトソーサーに委託することで、煩雑になっていた業務が見える化され、問題点をあぶりだすことができます。
結果として、アウトソーシングはコア業務の強化にとどまらず、ノンコア業務の業務効率化につながります。
コストの削減
自社で業務を行う場合、人件費や施設管理費といった固定費が増大し、経営を圧迫します。ところが、アウトソーシングした業務にかかるのはアウトソーサーに支払う報酬のみとなります。
これは生産量に応じて調節できる「変動費」であり、業務コストを最適化できます。
専門的な業者のパフォーマンスを即座に活用できる
アウトソーサーはその分野に特化した専門業者であり、蓄積されたノウハウと高い業務遂行能力を持っているため、サービスの品質が向上します。また、一から新規事業や部門を立ち上げる際には社員育成や施設拡張といったコストがかかります。
アウトソーシングを活用することで、それらのコストをカットしつつ、最初から高い品質のサービスを供給できます。
組織の肥大化防止
なるべく人件費を抑えて社員に還元するために少数精鋭を採用する企業も少なくありません。ただし、業務量があまりにも膨大な場合には、意図せずとも新たな人材を採用しなければならないというケースもあります。
アウトソーシングすることによって、新たな人材を採用しなくてこれまで以上の業務量をこなすことが可能となり、組織の肥大化を防止することにもつながるのです。
アウトソーシングのデメリット
アウトソーシングのデメリットは以下の3つです。
・社内にノウハウが蓄積されない
・情報漏えいの危険性
・経営戦略に基づいていないと失敗する
1つずつみていきましょう。
社内にノウハウが蓄積されない
業務を社外に切り出すため、そのノウハウを自社に蓄積できないのがアウトソーシングのデメリットです。このため、必然的にアウトソーシングするのはノウハウを蓄積する必要がない業務に限られます。
また、アウトソーサーがサービスの提供を停止したり、倒産したりした場合、社内にノウハウが蓄積されていないことによって、社内がマヒ状態に陥る危険性も考えられます。
情報漏えいの危険性
社内の業務を社外に持ち出すわけですから、当然情報が漏えいする危険性が伴います。
アウトソーシングできる業務の中にはコールセンターやマイナンバー管理、ITシステム運営などが挙げられますが、これらはいずれも従業員情報や顧客情報、企業機密の情報等を含んでいます。w万全のセキュリティ体制を敷いていると謳っているアウトソーサーであっても、そのリスクは決してゼロにはなりません。
委託者は強固なセキュリティ体制を敷いているアウトソーサーの選定、情報連絡体制の構築といった対策を取り、情報漏えいのリスクを抑える必要があります。
経営戦略に基づいていないと失敗する
アウトソーシングを成功させるには、課題の洗い出し、適切な業務の切り出し、社員とのコミュニケーション、アウトソーサーとの緊密な連絡など様々な要素が必要であり、周到な計画を立てなければなりません。
経営戦略を無視して、「あの業務が大変だから委託しよう」といった気軽な動機でアウトソーシングを行うと、社内外に様々な支障をきたし、アウトソーシングは失敗に終わってしまうでしょう。
アウトソーシングの種類
アウトソーシングには以下の3種類があります。
・BPO
・ITO
・KPO
順番に解説します。
BPO
BPOとは「Business Process Outsourcing」の略称で、業務の改善目的として利用されるケースがほとんどです。
以下の内容を委託することができます。
・人事業務
・総務業務
・経理業務
非常に専門性が高いので、コストの削減だけではなく、業務クオリティの向上にも期待できるのが特徴です。
ITO
ITOとは「Information Technology Outsourcing」の略称で、自社のIT業務を委託することです。
IT導入の企画や開発・運用までを全て委託するフルアウトソーシングや運用だけを委託する運用アウトソーシングなどがあります。
ITOの導入によって自社に最先端のITシステムを導入し、業務の効率化や無駄な業務の削減などが可能です。
KPO
KPOとは「Knowledge Process Outsourcing」の略で、情報の分析やデータ収集などが必要な業務を外部に委託することです。
これらの業務はマニュアル化されていないため、高度なノウハウや知識が必要となります。そのため、高学歴であるにも関わらず低賃金で働けるインドや中国などなどの人材を起用するケースがほとんどです。
アウトソーシングの業務形態
アウトソーシングの業務形態には全部で5つあります。
・シェアードサービス
・コ・ソーシング
・マルチソーシング
・クラウドソーシング
・オフショアアウトソーシング
1つずつ紹介します。
シェアードサービス
シェアードサービスとは、複数のグループ企業間で1つの業務を1社に集約させる企業改革のことを指します。
シェアードサービスの対象となる業務は以下の通りです。
・財務
・経理
・総務
・人事
・情報システム
・物流
・法務
・監査
シェアードサービスによってガバナンスの強化や人的リソースの有効活用・ナレッジの共有や蓄積ができます。
コ・ソーシング
コ・ソーシングとは委託先だけではなく、社内の管理者や担当者なども共同で業務を実施する業務形態です。
そのため、アウトソーシングでありながら社内でノウハウを蓄積できます。コ・ソーシングは、戦略的な提携として実施されることがほとんどです。
マルチソーシング
マルチソーシングとは、1つの企業にアウトソーシングするのではなく、業務内容を分割して複数社に依頼する形態です。
マルチソーシングすることによって業務を細かく管理できます。また、業務によって専門性が高い企業に委託できるので、クオリティの向上にもつながるのです。
クラウドソーシング
クラウドソーシングとは、不特定多数の業務が発注できる業務形態です。
ランサーズやクラウドワークスなどがクラウドソーシングサイトとして有名です。副業やフリーランスの方が利用していることが多く、コストを抑えて業務を発注することができます。
オフショアアウトソーシング
オフショアアウトソーシングとは、海外の企業へ業務を委託する業務形態です。
海外は国内と比べて人件費が安いにも関わらず、優秀な人材を雇用することができます。そのため、業務クオリティの向上とコストの削減が可能です。
アウトソーシングの業務内容
アウトソーシングの業務内容は以下の4つです。
・ITアウトソーシング
・コールセンターのアウトソーシング
・人事系アウトソーシング
・総務系アウトソーシング
ITアウトソーシング
IT分野のインフラ構築や設計、またシステムの運用を外部委託するのがITアウトソーシングです。IT化が進み、ITの専門知識が必要とされる中で、ITを専門的に扱うアウトソーシングサービスの需要は日々増しています。
アウトソーシングする範囲は主に下記の4つに分けることができます。
フルアウトソーシング
インフラ構築からシステムの運用まで、一括でアウトソーシングする形態のことを指します。
運用アウトソーシング
システム運用とメンテナンスのみアウトソーシングする形態です。
ハウジング
アウトソーサーが提供するデータセンターを間借りして、企業のサーバーを置かせてもらうのがハウジングです。
サーバーの運用・保守を委託することもできるため、セキュリティなどの面から、自社にサーバーを置くコストやリスクが高い際に有効です。
ホスティング
アウトソーサーのレンタルサーバーを利用する形態です。
コールセンターのアウトソーシング
コールセンターは業種によって部門が異なる業務ですが、アウトソーシングのメリットが多い部門といえます。
コールセンターには、大きく分けて顧客対応を行うインバウンド業務と、営業活動を行うアウトバウンド業務があります。コールセンターの設置には人件費、導入コスト、ランニングコストがかかるため、アウトソーシングすることでコスト削減を期待できます。
人事系アウトソーシング
ルーティンワークや専門知識が求められる分野でもあることから、人事系業務のアウトソーシングも盛んに行われています。
アウトソーシングに向いている人事業務としては、給与計算、勤怠管理、採用支援、人材育成(社員研修やスキル・資格取得支援)、社会保険管理、人事情報システム構築などが挙げられます。
特に、採用競争が激しい昨今、採用業務をアウトソーシングして優秀な人材の確保に努める企業が多くなってきています。
総務系アウトソーシング
社員が働きやすい環境を整える働きが総務です。会社全体の管理や運営に関わる業務をつかさどる部門ということができます。
備品の発注・管理、オフィスの保全・管理、社内規定の作成や更新、社内イベントの企画・運営、来客の受付・対応、株主総会の運営など、その業務範囲は幅広く多彩です。
社員の負担となっている業務を適切に切り出してアウトソーシングすることで、限られた経営資源を有効活用することができます。
まとめ
アウトソーシングはコア業務への集中、コスト最適化、業務効率化を図ることができるサービスとして注目を集めている外部委託形態です。
IT業務から人事、総務、コールセンターまで、幅広い業務がアウトソーシングの対象となりますが、コア業務の選定を間違えると、社内に様々な弊害をもたらします。
あくまでも企業戦略に基づいて行われる経営手法であるという認識を崩さず、綿密な準備を練ることが成功の秘訣だといえるでしょう。